道路点検AIや市民投稿で、自治体のメンテナンス作業を軽減し、未来のインフラ維持へ
全国各地で見受けられる橋や道路といった公共インフラの老朽化は行政にとって切実な課題であり、これらを支える労働力の減少も懸念されています。このような背景の中、株式会社アーバンエックステクノロジーズは、先進的な技術を駆使してインフラメンテナンスの新たなモデルを打ち出しています。
路面損傷を早期に発見できるAIによる道路点検プラットフォームと、住民が直接インフラの不具合を行政と共有することができる市民参加型の市民協働プラットフォームにより、自治体のインフラ維持管理を効率化します。
株式会社アーバンエックステクノロジーズ
代表取締役 前田 紘弥 プロフィール
- 東京大学生産技術研究所特任研究員。Forbes 30 under 30 ASIA 2021。
- 2018年東京大学工学系研究科社会基盤学専攻修了、三菱総合研究所入社。
- 2020年に株式会社アーバンエックステクノロジーズ設立。2021年3月博士号(工学)取得。
- 「しなやかな都市インフラ管理支えるデジタル基盤をつくる」をビジョンとして掲げ、現在はスマートフォンやドライブレコーダーを用いたAI道路損傷検知サービス、市民協働投稿サービスを提供中。
―まずは御社が開発された道路点検AIの概要からお願いします
スマートフォンやドライブレコーダーで撮影した画像等をAIで解析する道路損傷検知サービスです。画像処理や振動解析の技術を用いており、スマートフォンやドライブレコーダーを車両に設置して走行するだけで道路点検が完了する、というもの。スマートフォン版を【Road Manager(ロードマネージャー)】、三井住友海上火災保険(株)様との共同事業であるドライブレコーダー版を【ドラレコ・ロードマネージャー】という製品名で提供しています。
従来の道路損傷の点検は、主に専用の点検車両の走行や専門職員による目視で行われてきました。しかし、そこには大変な労力とコストがかかります。予算が足りずに十分な点検ができない自治体や、そもそも専門職員がいない自治体もあるでしょう。【Road Manager】や【ドラレコ・ロードマネージャー】を活用すると、簡便かつ日常的に道路点検を実施でき、損傷が軽微なうちに発見して対処することも可能になるのです。
―仕組みや機能の詳細を教えてください
【Road Manager】のほうは、専用アプリをインストールしたスマートフォンを車両にセットすると、走行した道路の撮影・点検を自動で行います。ただ路面を撮影するだけではなく、システムに搭載されたAIが自動的に損傷を検出・撮影し、該当箇所の画像をリアルタイムでアップロード。地図情報とともにWeb上のダッシュボード(管理画面)で確認することができます。
画像と位置情報は作業指示書としても出力可能ですし、補修担当者とアカウントを共有すれば対応状況を双方で確認できるため、点検から補修完了までのプロセスが非常にスムーズになります。損傷の大きさを推定する機能や、路線ごとに路面状態を評価する機能等も付いているので、補修の優先順位付けにも役立つでしょう。位置情報をもとに道路管理者種別を自動判定できることも強みです。
【ドラレコ・ロードマネージャー】は、三井住友海上火災保険(株)様との協業で実現したサービスです。自動車保険のドライブレコーダーに当社のAIが搭載されており、自動車保険契約者のドライブレコーダー映像から、ユーザーの許諾を得られる場合のみ、路面損傷を取得します。
【Road Manager】と同様、損傷箇所の位置情報や画像をクラウド上で一元管理でき、レポート出力や道路修繕事業者への連携が可能です。たとえば東京都品川区では一ヶ月もあれば80%を超える道路のデータが集まりますね。
―自治体における導入・活用事例を、【Road Manager】から教えてください
兵庫県尼崎市様でポットホール(路面にあく穴)の補修件数が約3倍になったという成果が出ていたり、滋賀県大津市様では大型の巡回車両で回り切れない生活道路の巡回に【Road Manager】を活用されていたりと、さまざまな実績が上がってきています。
東京都港区様では、青パト(青色防犯パトロールの車両)に同製品のアプリを入れたスマートフォンを設置することで、道路管理の担当部署の方が巡回しなくても点検データが集まる仕組みを構築されているようです。自治体の管理下にある車両に取り付けて普段どおりの業務を行うだけで点検データが集まるので、非常に効率的な方法だと思いますね。
また、国内のみならず海外でも実績がございます。「2021年度Smart JAMP(ASEANにおけるインフラ管理システムの導入可能性)に関する調査検討業務」に【Road Manager】が採択され、東南アジアの数カ国で実証を行いました。2023年度も東南アジア、南米で実証を行っています。
―【ドラレコ・ロードマネージャー】はいかがですか
同製品の実証実験に参加してくださった山梨県北杜市様の事例がございます。同市は5町3村が合併して生まれた市で、東京23区とほぼ同じ面積を有する広大な自治体です。市道の延長総距離は約1,089km、しかも土地の標高差が大きいため、道路管理に莫大な労力とコストを要するとのことでした。
前述のとおり、ドラレコ・ロードマネージャーは専用のドラレコを搭載した一般車両からデータが集まるので、自治体の職員が車両を走行させる必要はありません。実際、試験的に導入した1ヶ月の間にドラレコを搭載した車が49台走り、市内の約3割の道路状況を点検・確認することができました。
同製品は、第六回インフラメンテナンス大賞・優秀賞(国土交通省)やgood digital award2022・防災インフラ部門最優秀賞(デジタル庁)等の賞を受賞しており、他の自治体における導入実績も増えてきています。
―御社のもう一つのサービス【My City Report for citizens】について
住民の方が道路や公園等の公共空間において問題がある場所や壊れている物を見つけた場合、スマホアプリで写真やコメントを投稿するだけで、行政の適切な部局にデータが送られるというサービスです。
行政の側から見るとタスク管理のツールになっているので、住民の方々から送られてきた情報を画面上で管理できます。万が一管轄が異なる部局に送られてきた場合は、システムの中で正しい部局にエスカレーションすることも可能です。
これまでは、まず住民の方が窓口に来たり電話が入ったりして、職員が詳細を聞いてから現場に行って確認・処理するのが一般的でした。しかしこのサービスを使えば、投稿が来た段階で写真とコメントと位置情報が付いているので、1件あたりの処理コストと手間が大幅に削減されます。
自治体では何千kmもの道路を管理しているわけですから、職員の皆さんで点検の目を行き届かせるのは並大抵のことではありません。しかし、そこで生活している人々の目線から見ると、損傷や問題があれば容易に気付くことができるのです。
―道路や施設の点検はもちろん、イベントなど幅広い用途で活用できそうですね
はい。PTAの通学路点検で【My City Report for citizens】のアプリを活用いただいた事例や、住民から桜の開花レポートを集めた自治体様もあります。「桜が開花したら教えてください」というテーマを行政が設定したところ、住民の皆さんから次々と情報が集まって写真と位置情報で開花状況が整理され、情報提供やPRにも繋がったようです。
【My City Report for citizens】は、ご利用中の自治体一覧および直近30日の投稿件数、実際に市民から投稿された内容もMy City ReportのWEBサイト上に掲載しているので、ぜひご覧いただけたらと思います。
―各種サービスの開発は、大学時代の研究がベースになっていると伺いました
はい。元々2016年からインフラ管理のデジタル化に関する研究をしていました。いろんな自治体で実証実験を行いながら、国際ジャーナルに論文が掲載されるなど成果を出すことができました。そんな中で、大学の研究成果を実際にインフラ管理者の皆様の業務に直接的に役立てていただけないかということを考えました。
―研究・開発の動機や、企業としての理念は
かつて人が増えていく局面で作られてきたインフラを、人が減少していく局面において、どう安全に長く使っていくのか─。その課題に対して、ソフトウェアの力で貢献していきたいという思いがあります。当社のミッションは「都市インフラをアップデートして人々の生活を豊かに」、2025年までのビジョンは「しなやかな都市インフラ管理を支えるデジタル基盤をつくる」です。
「しなやかな都市インフラ管理」を実現することによって、たとえ人口や労働力が不足してもインフラが持続可能になるという仮説に基づいて事業を推進しています。道路点検AIや市民協働投稿サービスに限らず、あらゆる都市インフラをソフトウェアで管理できるようになれば、より社会や人々に貢献できるはずです。
例えば、道路管理においては、道路点検AIや市民投稿サービスを活用しながら皆で点検を行って、専門性が求められる修繕・管理の部分は自治体職員や委託業者が行うという分担にすれば、自治体の職員さんがパトロールや点検のために自ら足を運ぶ必要がなくなります。その分、時間やコストを他の業務に回すことができるので、他業務も含めて効率が上がるのではないでしょうか。
―その他、こだわりは
特定の自治体から委託を受けてソフトウェアを納品するというスタイルではなく、すべての自治体が共通で使えるプラットフォームとして提供したいと考えています。AIもソフトウェアも共通にすることで、品質の高いソフトウェアを比較的安価にどんな自治体でも使えるようにするというのが当社のコンセプトです。また、当社が事務局として運営をサポートしているMy City Reportコンソーシアムでは、会員自治体様と、総会や連絡会で情報交換をしたり、機能改善についての議論の場を設けたりしながら、一緒に次世代型のインフラ維持管理を創り上げています。
―最後に今後のビジョンや計画、自治体様へのメッセージをお願いします
このたびSIP(「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期(令和5年~)」(内閣府))の一課題である「スマートインフラマネジメントシステムの構築」に採択いただき、道路点検AIや市民投稿の研究開発をさらに推進し、しやなやかな都市インフラ管理を支えるデジタル基盤に向けた取り組みを加速させます。
また、道路や河川等以外にも様々な都市インフラがありますから、当社としては管理できるインフラの種類を増やしたいと思っています。「しなやかなインフラ管理」を実現するべく、特定のインフラに対するサービスというよりは、様々なインフラに関するソリューションを、あらゆる自治体が共通で活用できるプラットフォームとして整備していきたいです。
今年の4月からは盛土管理DXに関するソフトウェアの開発に取り組んでおり、令和5年以降に自治体様に提供できるよう準備を進めています。
我々はスタートアップとして人口減少社会における持続可能な都市インフラ管理という課題解決に貢献していきたいと考えています。自治体DXのあるべき方向性を話し合ったり、ソフトウェアやデータセットの開発・製作に関する協議をしたりするところから、自治体の皆さんとご一緒できましたら光栄です。