寄付額は前年同月比3倍超。
デジタルマーケティングで「ふるさと納税」の成果が上がる
「ふるさと納税」は地方自治体に対して、財政収入の拡大やPR効果による地域振興等のメリットをもたらすが、寄付額が伸び悩み苦戦するケースも多く見られる。その状況を打開する打ち手のひとつが、デジタルマーケティング施策の活用だ。
名だたる企業のマーケティング領域で数々の実績を誇る株式会社pinealが、民間で培ってきた知見を携え、ふるさと納税の発展的未来を創造する─。
株式会社pineal
COO/執行役員 田口 由馬 プロフィール
- 日本たばこ産業株式会社(JT)にて当時新規事業であった加熱式たばこ関連商品のマーケティング全般をリード。
- また楽天・ヤフーにてEC、web広告、デジタル販促を支援も経験。
- 事業会社と支援会社の両方の経験・視点を持っており、プロダクトマーケ、デジタルマーケ領域での支援を特に得意としている。
- 自治体様との取り組みにおいては、「ふるさと納税」をマーケティング観点から支援するという形で熱い気持ちを持って従事。
株式会社pineal
エグゼクティブコンサルタント/AIソリューションエキスパート 藤田 拳 プロフィール
- 東京大学大学院を卒業後、新卒でAGC株式会社に入社。
- 新商品開発およびマーケティング業務に従事。
- pinealではデジタルマーケティング領域におけるコンサルタントとして、戦略企画、サイト改善・運用ディレクションなどを行う。
- 業務におけるAI活用を積極的に推進しており、実例をベースにした社内教育・研修も行なっている。
─最初に、御社の概要と事業内容からお願いします
田口
株式会社pineal(ピネアル)は、マーケティング領域をメインとしたコンサルティング会社です。「生きがいを持って、ワクワク働ける人の数を最大化する」というパーパスを掲げ、企業様や自治体様の事業をご支援させていただいております。バリューに置いているのは、「顧客自身がコア業務に邁進できる土台を作って、生きがいを持って働ける事業環境を作る、ビジネス設計事務所」です。
デジタルにはさまざまなツールがあり、あらゆるデータから仮説を立てて打ち手を考えることができます。しかし、あまりにも情報量が多いために、お客様ご自身でデジタルマーケティングをやろうとするとオペレーション業務が膨大になり、本来の業務である「コア業務」に使う時間が削られてしまいます。私たちのご支援によって皆さんがコア業務に集中して正しく時間を使っていただければ、ワクワク働いて豊かな生活を送れる人が増えるのではないかと考えております。
当社の事業内容は、大きく「業務改革コンサルティング事業」「マーケティングコンサルティング事業」「DX人材育成事業」の三つです。「業務改革コンサルティング事業」は、ツールの導入という施策を取ることもありますが、基本的には業務フローを整えることで業務の効率化・業務プロセスの改善を支援していきます。「マーケティングコンサルティング事業」は、現状の課題を捉えた戦略立案という形のご支援もあれば、実際に現場に入って戦略の実行まで伴走支援でご一緒させていただくケースも多いです。「DX人材育成事業」では、デジタルマーケティングを主戦場とする当社のノウハウを活かした研修コンテンツを展開しています。戦略立案から実行面までを支援した後、お客様の将来的な自走を目指すもので、現状はメーカーさんへのご提供が中心ですね。大手企業から中小企業、スタートアップまで、幅広い企業様とお取引をさせていただきつつ、長野県塩尻市様との取組を皮切りに、自治体様へのご支援を広げていこうとしています。
─自治体様に対するご支援の実績・成果を教えてください
田口
現在ご提供しているのは、「ふるさと納税」に関するマーケティングコンサルティングです。もちろん、自治体事業であることや「ふるさと納税」のスキームならではの留意点はありますが、基本的な仕掛けはECそのものです。サイトの改善やPRを通じて登録・購入等のアクションに結びつけるという部分は、まさに当社が得意としている領域です。
ECで物を売る、オンラインでお客様とコミュニケーションを取る等の分野に日頃から深く入り込んでいる当社の特性を活かして、ビジネス的な観点を持って支援することを心がけています。私自身が楽天の出身ということもあり、EC領域に関しては特に高い価値を提供できると感じていましたので、ふるさと納税にはずっと興味がありました。あるとき当社代表の人脈の中で、塩尻市様がふるさと納税の施策に苦慮されていることを知り、正式にお手伝いをさせていただくことが決まったのです。
藤田
内容としては、ふるさと納税サイトの企画およびサイトデザインと制作、PR記事の作成・発信、広告の制作・運用まで、まさにデジタルマーケティングの上流から下流までを支援しています。それらの反響に対してアクセス解析を行い、月単位でレポートをして戦略を設計し、適宜サイト改善のご提案をしていくという流れです。一度のご提供で終わるのではなく、長くお付き合いをしていきながら、長期的な目線で支援をしながら改善を図っていくサービスになっています。
具体的に言いますと、既存のサイトを分析するところから始めて、販促デザインのプロ監修のもとで改善提案を行います。サイトが整ったら、次に商品の魅力を最大限に引き出す広告やPR記事の制作・発信・運用です。商品の選定やPR方法など戦略の部分もしっかりと伴走支援させていただきます。広告およびPR記事の展開には特に力を入れており、運用結果の分析を行った上で改善案をご提案し、コンスタントにアップデートしていきます。
塩尻市様では、まず楽天ふるさと納税ページをリニューアルすることになり、画像やサムネイルのデザイン制作、PR TIMESへの記事発信、広告の制作・運用、そして月次レポートと、一通りの施策を実施しました。その結果、寄付金額は前年同月比で380%、サイトビュー数が240%と、非常に良好な数字が出ております。また、PR TIMESに出した記事が他のメディアに転載されて、さらには読者からリアクションがあり新たな展開に繋がった事例も生まれ、非常に喜んでいただきました。私たちとしても、自治体様がやりたいことの実現や地域活性化に貢献できていることを、大変うれしく思っています。
自治体の熱意にコミットして価値を提供する
─支援の体制や料金体系の部分で、御社ならではの強みとは
田口
先ほど藤田が申し上げたとおり、当社では中長期的な伴走支援を行っています。月に一度の定例会でコミュニケーションを取っていますので、持続的な支援ができること、担当者の方が代わられても継続しやすいことが利点です。より地域の魅力を知って発信していくためにも、塩尻市様には定例会の3回に1回は現地に足を運んでいますね。
ご支援にあたり重視しているのは、自治体様の事業であることを意識しすぎず、フラットな目線で考えることです。ダイレクトマーケティングやECマーケティングで重視される、CVR(※)を上げるための見せ方、ユーザーの興味を引きやすい商品の選定等も含めて、外部の私たちだからこそ客観的なご提案ができるよう意識しています。もちろん、自治体様の思いを汲みたいという思いが大前提にございますので、ポジティブなディスカッションで双方の意見をすり合わせて着地点を決めていきます。
きちんと分析をして仮設を立て、最善の打ち手を取っていくという基本的なルーティンを徹底して回すのは、強くこだわっているポイントです。また、当社は社内にデザイナーがおりますので、どんどんクリエイティブを制作し検証していくスピード感と馬力も高く評価していただいています。塩尻市様では細かい構成やクリエイティブを月ごとに更新していますが、これほどのスピード感で運用している自治体様は少ないのではないでしょうか。
※CVR:コンバージョンレート。サイトページを訪れたユーザーが、最終的に購入や問い合わせ等の目的行動に至った割合を示す指標。
藤田
料金体系については、原則、広告運用に係る実費は自治体様のご負担になりますが、広告の運用手数料や各種制作費は抑える形にしています。寄付金総額のから一定のパーセンテージを報酬として頂いているのですが、そこに広告運用手数料や制作費を包含する形にしていますので経費ルール上の計算もなるべくシンプルにできるようにしていますね。結果にコミットする料金体系になっているため、初期費用としては少ないリスクで始められるのではないかと思います。広告費を抑えて寄付額を増加させたい自治体様や、ふるさと納税サイトを魅力的にしたい自治体様、分析に基づいてしっかりとマーケティングをしていきたい自治体様におすすめです。
─御社の先導で伴走支援が得られるのは、自治体様にとって大変心強いですね。これまでに自治体様から受けたご要望やフィードバックはありますか
田口
複数の自治体様にコンタクトを取ってきた中では、マーケティングに着手したいと考えている自治体様が非常に多い印象です。一般的にふるさと納税では中間事業者様と一緒に施策を考えるケースが多い一方で、マーケティングに特化した当社の支援内容に対するポジティブな反響を得られていますので、今後は同様の取組が拡大していくのではないかと考えています。
塩尻市様では、楽天ふるさと納税をはじめとしたプラットフォームに誘導する特設ページを制作したいという話が出ています。まずは楽天ふるさと納税ページの最適化からスタートしましたが、次年度以降に検討を進めるかもしれません。ポータルサイトには、抱えているユーザーが多い、ポイントが付与される等のメリットがあるものの、広告運用時の手数料の問題を考えると特設サイトへのニーズはあるでしょう。こちらも当社でお受けできる内容なので、フェーズごとに方針を相談しながら進めていけたらと思います。
─ふるさと納税市場の中長期的な動向についてのご見解と、自治体様へのメッセージをお願いします
田口
世の中に製品があふれ市場が成熟してきた1990年~2000年代、企業と消費者がモノだけではない新たな価値を共創する「マーケティング3.0(※)」という概念が提唱されました。ふるさと納税においても、今後は「ふるさと納税3.0」のような動きが活発化していくのではないかと予測しています。しかし今はまだ、多くの自治体様が顧客との関係値を深めたいと考えつつ、なかなか上手く取り組めていないのが実態です。
ふるさと納税をきっかけとして、定期的にその地域の産物に触れる、実際に足を運んで体験をしてもらう、移住をしてもらう─。そのような成果に繋げるには、顧客とコミュニケーションを取り続けるための仕組みづくりが求められます。購入した商品や寄付したものによって案内を変える、一人ひとりの寄付額のデータを活用する等、購入・寄付をいただいた後のフォローやCRM(顧客関係性マネジメント)も重要になってくるでしょう。
先進的な自治体様ではLINEの公式アカウントを活用しているという事例も聞きますが、当社としてはそこからさらに踏み込んでいくところの提供価値を出していきたいですね。ECで物を売った後にLTV(顧客生涯価値)を上げていくためのコミュニケーション設計は、まさに私たちが一般的なコンサルティング案件で日々携わっている領域です。そのノウハウを自治体様にフィットさせていくことを今後のテーマとしていますので、ご一緒できる自治体様と沢山の出会いがありましたら幸いです。
※マーケティング3.0:アメリカの経営学者フィリップ・コトラーが『コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則(2010年 朝日新聞出版)』で提唱した概念。
藤田
ふるさと納税がスタートした当初は、どこも右肩上がりに寄付額が伸びていく勢いがありました。しかし開始から数年が経ち飽和してきた今は、より効果的に商品の魅力を伝えていくことや、商品のみならず自治体のファンになってもらうための取組が重要視される時代になったと感じています。そうなると各所からデジタルマーケティングの知見が求められ、当社のような企業が果たす役割も大きくなっていくでしょう。今後も自治体様の思いに寄り添いつつ、自治体様と一緒に喜びを分かち合いながら尽力して参ります。
冒頭に申し上げたように、当社のパーパスは「ワクワク働ける人の数を最大化する」です。私たち自身もそうありたいですし、お客様にもそうあって欲しいと心から願っています。自治体職員の皆さんは土地に対する思い入れが深く、熱意のある方が多くていらっしゃるので、ぜひその思いにコミットさせていただき、ご一緒にお取組ができたらと思います。