【イジュウチャット】で移住関心度が高まる。AI×有人のハイブリッド移住相談サービス
働き方の多様化で都市部から地方への移住ニーズが高まっている。地域振興を目指す自治体にとっては好機であるが、日々の業務で忙しく移住希望者への十分な対応が難しい等の事由から、なかなか結果に繋がらないケースもあるようだ。
AIと先輩移住者による移住相談サービス【イジュウチャット】は、AIならではの気軽さと有人対応ならではのメリットで、各自治体の移住促進を強く後押しする。
株式会社エクオル
CMO 佐々木 啓庄 プロフィール
- 自治体や企業の事業開発、マーケティングパートナーを支援する会社を自身で運営。
- エクオルでは自治体向けのサービス「イジュウチャット」を担当、自治体の移住促進事業の課題解決をサポートしている。
株式会社エクオル
広報 大塚 恵梨香 プロフィール
- 広告業界でのPR専門職、放送局でのキャスター/MCを経て独立。
- 自治体や企業主催のイベント/ウェビナーの進行・CMナレーション等を務める傍ら、アナウンサー/MCのキャスティング事業を展開。
- エクオルでは主にプレスリリースやオウンドメディアでの発信を担当している。
―本日は御社が展開する【イジュウチャット】をメインにお伺いしますが、バックグラウンドとして企業理念や主力事業についてお聞かせください
【大塚】
私たち株式会社エクオルは、人とデジタルの力を掛け合わせることによって、企業や団体の皆様の「何かを発信したい」「深く知ってほしい」「オンラインの仕事をサポートしてほしい」等のニーズに応えていく会社です。
主力サービスである独自のジョブマッチングシステム【メタジョブ】は、当社設立の契機となった事業でもあります。現在の日本では少子高齢化が進み、より人手不足が深刻化していくとされていますが、その一方で住む場所や時間などの様々な制約によって労働力を活かし切れていないのが実態です。たとえば「育児や介護があって外での勤務は難しい」等の理由で、働きたくても仕事に就けない方が数多く存在していますよね。
そこで、当社代表が「この労働人口不足を何とか解消できないか」と考えて導き出したのが、「あらゆる人が時間や場所の成約を受けずにテレワークできる土俵を整えよう」というアイデアでした。具体的には、入院中に病室のベッドの上で身動きが取れなくても働ける…そんなイメージで【メタジョブ】の構想を作り上げたと聞いています。
【メタジョブ】は【イジュウチャット】のベースにもなっているので簡単に説明させていただきますと、オンラインでの単発ワークに特化したジョブマッチングサービスです。あらゆる人に均等な雇用の機会を提供することで、個人を活かした仕事を見つける手助けをすると同時に、企業や団体の皆様がスムーズに求める人材を確保できるよう支援しています。
─これまでの実績と、特にニーズの高い分野は
【大塚】
製品版のリリースから約1年4ヶ月が経った2024年1月10日現在、登録ワーカー数が4,162名、登録企業・団体数が35、総マッチング数は5,530件です。マッチングの規模も幅広く、1名から100名を超える募集まで活用いただいております。
現状で、多く募集掲載いただいているのは、メタバース空間内での接客案内業務の募集です。アバターを使うという点が大きな特徴で、顔を出さずに声とパーソナリティを武器に接客していただくことが要となっています。
もともと接客業というのは、「現地にいないとできない」と考えられてきました。しかし、ロボットやディスプレイ端末等を掛け合わせることで、人がその場にいなくても接客や案内をすることが可能になります。こうした遠隔接客のニーズは今後も継続していくでしょう。
コロナ禍で思いがけず訪れたメタバースブームに後押しされた部分もありましたが、一過性のブームで終わらせてしまうのではなく、「時間や場所の制約を取りはらう」という目標に挑戦するべく、着実に進めていこうと動いています。
─それでは【イジュウチャット】について、サービスの概要をお聞かせください
【佐々木】
【イジュウチャット】は、移住を検討している方々の質問や相談に、AIと先輩移住者が無料で回答してくれるハイブリッド型の移住相談サービスです。私たち株式会社エクオルと一般社団法人 移住・交流推進機構(JOIN)様が共同で運営しています。
たとえば、ChatGPTを用いた移住AIに「都心から1時間で行ける自然豊かな土地」など希望する移住地の条件を打ち込むとしましょう。すると候補地がいくつか出てきますので、候補の中から気になる場所を見つけたら、次の段階から有人に移行して先輩移住者へ直接質問ができるようになります。
その後、実際にその土地に住んでいる先輩移住者とのやりとりを深めながら、最終的には自治体様と連携して移住のサポートにあたります。非常にシンプルではありますが、誰もが気軽に相談できる移住相談サービスとして展開中です。
─【イジュウチャット】の構想が生まれた発端は
【佐々木】
実は、ジョブマッチングサービスの【メタジョブ】を開発・展開するときに、一つチャレンジしたいことがありました。それは、「ライフシェアリングジョブ」という概念・スタイルの提案です。
今の世の中には、オンラインで仕事を受発注して支払いまで完結できるクラウドソーシングサービスが複数存在しています。ただ、Aさんというデザイナーがいた場合、Aさんが持っているのはデザインスキルだけではないですよね。Aさんにしかないさまざまな経験や側面があるはずで、その多面的なものこそが誰かの価値になるかもしれません。
せっかくオンラインで繋がるのであれば、1人のパーソナルな価値を最大限に活かす就労形態を目指したい。労働時間やスキルだけではなく、一人ひとりの持つ人生経験そのものが全て仕事に繋がる─。それが、【メタジョブ】が目指す「ライフシェアリングジョブ」の考え方です。
ただ、人手不足や接客チャネルの多様化によって遠隔接客の機会は増えてきた一方で、単に情報を出し入れするだけではユーザーに響かず、接客不足による機会損失も懸念されます。そこで、某メンズ化粧品ブランドとの実証実験で無人のポップアップ店舗を設置し、【メタジョブ】に登録している使用経験者をアバター接客スタッフとして採用したところ、来場者の関心度に変化が認められました。
実際に使ったことのある人が対応すると、予定調和の接客トークではなく経験談を伝えることができ、ユーザー側の関心度が高まるのです。私たちはこれを「共感型接客」と呼んでいます。オンライン対応なのでスタッフの省力化も実現し、雑談のように自然な形でECに誘導することも可能です。
この「ライフシェアリングジョブ」と「共感型接客」を他業界にも活かせないかという着想から、まずは私が移住事業のアドバイザーを務める広島県の移住促進チームと共に、【メタジョブ】に登録している先輩移住者がオンラインで移住会議に参加する取組にチャレンジしました。彼らは自身の体験談をベースに、現地の生活感などリアルな情報を語ってくれます。そのときの内容や反省点を踏まえて進化させたものが【イジュウチャット】です。
─【イジュウチャット】で変化させた点を教えてください
【佐々木】
広島県との取組ではオンライン相談にZOOMを使っていたのですが、【イジュウチャット】では止めました。予約してZOOMを立ち上げてオンラインで話すという仕組みは、利用者にとってハードルが高かったようで、予約が入りにくかったのです。「気軽さ」を謳うのであればチャットにベースを置いたほうが良いと考え、AIとチャット形式の相談を取り入れることになりました。
ちょうどその頃にChatGPTが出てきたことも、AIを導入した理由の一つです。今や生成AIへの関心は一気に高まり、自治体様も活用検討を無視できない状況になっています。ただ、AIは時々間違った情報を出してしまうため、自治体様としては「誤情報を住民向けサービスとして発信できない」というジレンマがあるでしょう。そこで、民間である我々が実証実験を行って、そのノウハウを自治体様にフィードバックしようと考えたのです。
あくまでAIは「気軽に」というポイントをクリアするための入り口として使っているだけです。我々としては有人対応に重きを置いていますので、早い段階で先輩移住者であるスポット移住相談員に繋げたいというのが本質的な狙いになります。
─【イジュウチャット】を展開するにあたって特に重視したポイントは
【佐々木】
「気軽に相談できる」ことと「マッチングの質」です。気軽という部分については前述のAI導入もそうですし、自治体に電話したり相談の場に足を運んだりするのは、既に強い意志がある人しかできないことなので、『何となく思いついただけでも気軽に相談できるような窓口を作りたい』と思いました。
現状の課題として、熱量の高い移住希望者については、どうしても自治体様側が個別相談で一度に対応できる人数は限られます。また、移住促進ポータルサイト等には多くの情報が網羅されていますが、各移住相談者が個々に求める情報をピンポイントで選び出すのは至難の業だったりもしますよね。
【イジュウチャット】は、移住経験者の力を借りることでこうした課題が好転していくという仮説からスタートした事業でもあります。JOINさんと本格的に取り組む前に当社独自で展開した【イジュウチャット ベータ版】では、約2ヶ月の間にChatGPTへの入力が900件、スポット移住相談員への相談数は270強にのぼり、「気軽さ」を重視した手応えを感じています。
また、相談者と対応者の間に世代・家族構成・ライフスタイル等のギャップがあると、いまひとつ感覚が噛み合わないことにも課題を感じていました。たとえば家族がいる40代の方の移住相談に20代独身の方が対応しても、ニーズや心配事をしっかり把握することは難しいですよね。できるだけ目線が近い移住相談員と繋ぐため、相談者と対応者のマッチングを重視しています。
スポット移住相談員はLINEの“Lステップ”で募集しているほか、【メタジョブ】登録者の中から選抜して直接お声がけをすることもあります。ここの完全自動化も目指してはいるのですが、まだまだ手動のほうが高精度で結果に繋がりますし、当社は人の手が入ることを価値にしていますから、敢えてアナログを残している部分もありますね。適任者が見つからない場合は自治体様が発信している情報をお伝えするなど適宜対応していますが、人が増えていくと更にスムーズになると思います。
─自治体様側のタスクはありますか
【佐々木】
いいえ、自治体様は結果だけを受け取る形となります。おそらく今、SaaS系モデルをはじめとしたサービスのご提案は膨大な数にのぼっているでしょう。しかし自治体様としては、既存の業務が忙しすぎて手が回らない、担当できる職員がいない等の課題が山積しているのが実態です。
そのため【イジュウチャット】では、自治体様の業務負荷がない状態で移住相談窓口の拡張を実現することを強く意識しました。スポット移住相談員の契約や勤怠管理、報酬の支払い関連の業務等もすべて我々の仕組みの中で処理します。
─類似サービスとの違いについて
【佐々木】
競合という立ち位置ではないのですが、【イジュウチャット】の話をした際に「チャットボットの導入を検討している」とおっしゃる自治体様は多いですね。そこで、有人対応も取り入れたほうが深い相談ができそうな案件に関しては、チャットボットと【イジュウチャット】の連携をおすすめしています。
特に「チャットボットを導入したけど結果が出ない」という自治体様とは、ぜひお話をさせていただきたいと考えています。チャットボットは確かに便利ですが、「チャットボットがあるから移住への関心が高まる」という現象は起きにくいでしょう。一方で、スポット移住相談員からの情報や対応、「相談員の方が面白かった」等の人間性も含めた部分こそが、関心度を左右すると思うのです。
また、先輩移住者と移住相談者のやり取りを生成AIが学習して、より良いサービスが実現していくかもしれません。これから実績を積んでいくことで、【イジュウチャット】の記録をビッグデータとしてご提供できる可能性も視野に入れています。
「仕組み」と「人との繋がり」の共存
─【イジュウチャット】に対する自治体様からの反響や今後の予定は
【佐々木】
2023年10月にリリースしたばかりなのですが、既にいくつかの自治体様で導入に向けた具体的な話が進んでいます。問い合わせも含めると、引き合いとしては非常に強いと感じていますね。
また、前述の広島県との取組等を通じて、様々な知見やノウハウが溜まってきたことを実感しています。たとえば、有人に移行するベストなタイミングについて。各自治体様が移住ジャーニー(移住希望者が移住するまでの道のり)を描いている中で、「どのタイミングでスポット移住相談員と接点を作れば関心度がより高まるのか」という部分が、少しずつ明確になってきました。だからこそ、単純に仕組みを導入いただくだけではなく、伴走型で継続していきたいという思いがあります。
─導入にあたり懸念されることや、その解決策をお聞かせください
【佐々木】
多くの自治体様が懸念されるのは、「スポット移住相談員とは、どんな人物なのか」という点でしょう。誰なのかわからない人が自治体のオフィシャルとして対応するとなれば、不安になるのは無理もありません。
そこで最初のフェーズとして、基本的には全て“地域おこし協力隊”の方々に依頼しようと思っています。まずはOB・OGも含めて地域おこし協力隊のネットワークにいる方々に、スポット移住相談員として活躍していただきます。
フェーズ2で想定しているのは、“地域のキーパーソン”です。「この相談をするなら○○さん」という方が各自治体にいらっしゃると思うので、そういう方々を巻き込んでいこうと考えています。こちらは自治体様のほうから推薦があるケースも多いので、そのときは一旦【メタジョブ】に登録していただき、その後の管理は我々が代行しています。
そしてフェーズ3として、ゆくゆくは本当にすべての移住経験者が、もっと言えばその土地に暮らしている全員が、オール市町で移住相談を請け負っていけたら良いなと考えています。最終的にそこを目指すことを念頭に置きつつ、自治体様が発出するサービスとして信頼性を担保するため、まずはフェーズ1・2をメインに進めるつもりです。自治体様と【メタジョブ】の両方の信任を得ている方から始めていくので、ご安心ください。
─他に先々の目標としていることはありますか
【佐々木】
ご同意が得られるのであれば、自治体様の立ち合いのもと【イジュウチャット】で出会った移住経験者と移住希望者が面会する場を設けることも想定しています。というのも、実際に移住を検討している土地へ行ってみたいと思っても、距離が遠いとなかなか思い切れない実態があるのです。
たとえば広島県の移住促進事業では東京在住の方を主なターゲットとしていますが、当然ながら小一時間程度で行ける距離ではなくコストもかかりますので、足を運ぶとなる旅行レベルの意気込みが必要になります。これは「新幹線4時間の壁」とも呼ばれており、自治体側がどんなに魅力をアピールしても、なかなかそのハードルを超えられません。
一方で現地の人と仲良くなれば、「あの人に会いに行こう」という別の目的ができて、ハードルは一気に低くなります。移住促進においては、現地に知り合いを作るのが一番早いと言っても過言ではないのです。
我々は【イジュウチャット】を通して、単純に情報提供をするだけではなく、現地に足を運ぶ・実際に移住を決断する動機になるような関係性を作っていきたいと考えています。だからこそ、自治体様としっかり連携しながら、いずれかの段階でリアルでの面会セッティングにも挑戦していきたいですね。
─最後に、自治体様へのメッセージをお願いします
【佐々木】
移住促進事業とひと口に言っても、地域課題等は自治体様によって千差万別です。汎用性の高いサービスを作りながらも、各自治体様が抱えている特有の課題を解決できるように、伴走型支援のための体制強化が不可欠であると考えています。
色々な自治体様に導入いただくことを目標として、当社では【イジュウチャット】をお試しくださる自治体様を募集しています。お互いにとっての実証的な位置付けで「協業トライアル」という形なので、無償でのご提供が可能です。なお、じっくりと伴走支援で取り組んでいきたいと考えているため、先着 3自治体様限定の募集となります。
募集詳細
募集数 | 先着 3自治体様 |
---|---|
提供サービス | イジュウチャット |
トライアル実施期間 | 協議の上、設定 |
費用 | 無料 |
近頃はDXというワードをよく耳にするようになりました。ただ、基本的に地域の資産とは「人」、そして人に紐づく「活動」だと思っています。デジタルだけで解決できることは、実はあまり無いのかもしれません。もちろん役に立つことはたくさんありますが、地域の課題を本当の意味で解決できるのは、やはり「人」だと思うのです。
だからこそ、人々の活動を活発化させていくこと、その経験と記録を活かしていくことが重要だと考えています。そのための「仕組み」と「人との繋がり」の両方に着眼した【イジュウチャット】のような取組を、今後もどんどん進めていきたいと思っていますので、ご関心のある自治体様はぜひお問い合わせください。
デジタルワークに特化したジョブマッチングサービス メタジョブ
株式会社エクオル 企業概要
2019年、同社代表が【アバタラクション(メタジョブの前身)】の構想を発表。
2020年8月より新規事業立ち上げへの取組を開始。
2021年10月、サービス名称を【メタジョブ】に変更し・ベータ版をリリース。
2022年9月、【メタジョブ】正式リリース。
2023年9月、株式会社エクオルを設立。
2023年10月、【イジュウチャット】をリリース。