自治体の看板を背負う返礼品の責任
「Custos」で挑む、大津屋のふるさと納税
品質革命
福井県を中心に14の自治体と契約を結び、ふるさと納税中間事業者として急成長を遂げる株式会社大津屋が開発したのが、返礼品の品質管理や食品表示の適正化をサポートする「Custos(クストス)」だ。長年のコンビニ/惣菜事業で培った食品衛生の知識を活かし、返礼品の安全性向上と自治体ブランドの保護に取り組む。ふるさと納税事業への参入経緯や「Custos」開発の背景、今後の展望について、第三十代当主の大津屋孫左衛門氏に話を伺った。
株式会社大津屋 第三十代当主
大津屋孫左衛門
2008年慶應義塾大学経済学部卒。フランチャイズ支援および経営コンサルティングを行う一部上場企業にて新規事業開発に従事。2011年株式会社大津屋に入社、小売業における業務全般に携わり2015年専務取締役に就任。2019年より休職し慶應義塾大学大学院経営管理研究科に入学、修士課程(MBAプログラム)を修了。2021年復職、ふるさと納税関連事業の推進。2023年10月より第三十代当主(代表取締役社長)に就任。現在に至る。
ふるさと納税 品質保証サービス『Custos(クストス)』
ふるさと納税事業に参入された経緯は?
当社は創業450年という長い歴史を持つ企業ですが、常に時代のニーズに合わせて事業を展開してきました。1981年には県内初のコンビニエンスストア「オレンジボックス」をスタートさせ、店内調理でコンビニ機能を持ちながら惣菜を作るという独自性のある形態で成功を収めています。
ふるさと納税の中間事業に参入したきっかけは、地元事業者とのつながりにあります。パーキングエリアで本格的にお土産の取り扱いをするようになり、県内の生産者さんやメーカーさんとの取引がはじまりました。その流れで2016年から福井市より観光物産館における管理運営の委託を受けました。すると、自治体の方から「それだけたくさんの事業者さんとの繋がりがあるんだったら、ふるさと納税の中間事業者をやってみないか」という話をいただき、2020年からふるさと納税の中間事業を始めて、現在では14の自治体(県内8、県外6)でふるさと納税の中間事業を行っております。
「Custos」開発の背景については?
そもそもふるさと納税の返礼品を出すハードルがすごく低いというところに危機感を感じていました。例えば工場なのに土足で入れて、被り物も手袋もせず加工をしていたり、特定原材料を扱っている空間でアレルギー表示のない製品を作っていたりなど。こういったところで作った商品が何の検査もなく出品されていて、これいずれ集団食中毒とか食品事故は絶対起こるよね、という危機感を感じました。
そこで、当社の持っているコンビニ/惣菜事業で行っている食品衛生の知識を広げていきたいと思い、「Custos」の開発に着手しました。昨今、ふるさと納税の返礼品での産地偽装の問題などが話題になりましたが、多くの場合、注文が入りすぎてそれをさばくことで精いっぱいになり、返礼品のひとつひとつが自治体の看板を背負っているという認識が薄れてしまっているのではないかと感じています。もし食品事故などが起これば、自治体のブランドイメージに大きなダメージを与えかねません。そのため、返礼品の品質管理や安全性の確保は絶対に必要だと考えたのです。
「Custos」サービス概要、導入の効果や狙いについてお聞かせください
「Custos」は、返礼品の品質管理と食品表示の適正化をサポートするサービスです。従来、返礼品の品質管理は主に事業者に委ねられており、特にふるさと納税では食品事業の経験が乏しい事業者の参入も多く、潜在的なリスクとなっていました。そこで「Custos」では、返礼品ページの表示確認、事業者との契約書策定、新規返礼品の審査、事業者向け勉強会の開催、定期監査・コンサルティングなどを提供し、これらのリスク軽減を図っています。
「Custos」の導入により、まず食品事故や法令違反のリスクを大幅に低減できます。事業者にとっても、この取り組みは大きなメリットがあります。「Custos」を通じて学んだ品質管理や法令遵守のノウハウは、ふるさと納税の返礼品だけでなく、事業者の本業にも活かすことができます。これにより、商品開発力の向上や新たな販路開拓にもつながる可能性があります。
さらに、この取り組みがふるさと納税をきっかけに地域全体に広がることで、地域産業全体の質の向上につながることも期待しています。つまり、「Custos」は単なる返礼品の品質管理サービスではなく、自治体のブランド保護、事業者の成長支援、そして地域経済の活性化を包括的に目指すものなのです。
大津屋が目指す、ふるさと納税の未来
「Custos」以外のサービスについても教えてください
「Custos」の品質管理サービスに加えて、私たちは寄附者と自治体をつなぐ様々なサービスを展開しています。その一つが、AIを活用した返礼品提案サービス「AIふるさと納税コンシェルジュ」です。このサービスは、寄附者の好みや希望に合わせて最適な返礼品を提案します。例えば、「肉」「1万円」といったキーワードを入力すると、その自治体で人気の肉系返礼品が表示されるんです。膨大な返礼品の中から寄附者が自分に合った商品を見つけやすくなり、結果として寄附の促進にもつながっています。
もう一つ力を入れているのが、情報発信WEBマガジン「ふるさとタイムズ」です。このサイトでは、各自治体の特色ある返礼品の紹介だけでなく、寄附金の使途や地域の課題解決プロジェクトなども詳しく紹介しています。ただし、単なる商品紹介ではなく、その地域の魅力や課題を深掘りした内容を心がけており、今後力を入れていきたいメディアです。
これらのサービスの相乗効果についてはどのようにお考えですか?
「Custos」で品質管理された安全で魅力的な返礼品を、「AIふるさと納税コンシェルジュ」が適切に寄附者にマッチングし、その返礼品の背景にある地域の魅力や課題を「ふるさとタイムズ」で深掘りして発信する。このように、品質管理、マッチング、情報発信という3つの要素が有機的に連携することで、ふるさと納税を通じた真の地方創生、すなわち地域の魅力向上と持続可能な関係人口の創出を実現できると考えています。
最後に、今後のふるさと納税のあり方や、地方創生についてお聞かせください。
私たちが最も大切にしているのは、地域に根差した「商社」としての役割です。単にふるさと納税の事務代行をするだけでなく、地域の事業者や自治体と密接に連携し、地域全体の価値向上に貢献していきたいと考えています。
ふるさと納税は、地方創生の重要なツールの一つです。私たちは、この制度を通じて地域の魅力を最大化し、持続可能な地域社会の実現に貢献していきたいと考えています。そのために、常に新しい価値を提案し、自治体や地域の事業者と共に成長していける存在でありたいと思います。
(取材日 2024年8月7日)