一般社団法人 自治体DX推進協議会

ふるさと納税・地方活性化の新レシピ
サイバーレコードの「ふるさとシコメル」

返礼品の企画や差別化、在庫管理・保管等の業務に頭を悩ませている自治体も少なくない。そんな中、地方自治体のふるさと納税の支援などを手掛けてきた㈱サイバーレコードが、産地品をもとにオリジナルの加工品を生み出す独自「ふるさとシコメル」をスタート。数々のEC運営などを手掛けてきた経験値や独自の企画力で、新たな風を吹き込む。「地域の事業者を支えたい」と話す代表取締役社長増田一哉氏に話を伺った。

 

 

株式会社サイバーレコード 代表取締役社長 増田 一哉様

株式会社サイバーレコード
代表取締役社長 増田 一哉 プロフィール
  • 2008年にGLOBAL EC COMPANY(GEC)になるという強い気持ちを持ち、株式会社サイバーレコードを創業。
  • 以来、ECのビジネス活用におけるエバンジェリストとして、ECに関する運営代行、越境ECコンサルティング、個人版ふるさと納税受託業務、企業版ふるさと受託業務ブランディングを行う。


 

 

原材料の魅力を最大限に活かした返礼品のコンサルティング・開拓

 

―「ふるさとシコメル」について教えてください

弊社サイバーレコードが株主でもある㈱シコメルフードテックが提携し、有名飲食店や料理研究家のシェフとコラボレーションした返礼品の開発を行うサービスです。地元でとれた野菜や果物、肉、魚といった産地品をシコメルに製造委託すると、日本全国140カ所あるシコメル社の工場が生産を請け負い、原材料の魅力を最大限に生かした加工品にします。この加工品は、有名レストランに監修を依頼したり、ミシュランガイドで星を獲得したことがある飲食店のシェフと提携をしたり…といったことで付加価値を与え、寄附者が魅力的だと感じる人気返礼品に仕上げていることも特徴です。
ポータルサイトへの掲載や写真撮影、デザイン、マーケティングは、弊社が行います。返礼品の在庫管理、保管、寄附者への発送業務もこちらで担当しますので、返礼品を担当する事業者にとっては、在庫リスクが全くない、理想的なサービスだといえます。

 

―単身世帯や手軽に調理をしたい人にも嬉しいですね

その通りです。ふるさと納税の返礼品は原則として地場産品とするという規制がある中で、生鮮食品が占める割合が非常に多いです。しかしながらライフスタイルが多様化している中、料理をしない方もいますし、手軽に調理ができて素材をおいしくいただけるような返礼品のニーズは確実にあります。
「ふるさとシコメル」で開発した返礼品の中でいうと、くまもとのプレミア牛である“あか牛”を使ったハンバーグは、1年間で2億円以上の寄附の申し込みを受けた実績があります。生産者の方々や自治体の方に「既存の販路から大きく販路を拡大する事ができた」と大変喜ばれており、返礼品が増え、差別化につながったという手ごたえがあります。

 

1年間で2億円以上の寄附の申し込みを受けたくまもとプレミア牛 “あか牛”を使ったハンバーグはフルサトシコ
メルのサービス

 

 

ふるさと納税において60自治体・6,000事業者・2万返礼品の取り扱い実績

 

―返礼品のコンサルティングから開拓、プロモーションまで手広く自治体・事業者に寄り添っていると感じます

弊社は2008年設立で、もともと楽天・アマゾンをはじめとするECモール運営をお客様に代わって一括代行してきました。
商品企画からデザイン、写真撮影、マーケティング、カスタマー対応までクライアントに代わり一括代行するスタイルで、現在、提携パートナーである「Amazon」「楽天市場」をはじめ、「Yahoo!」「LOHACO」などの業界大手のECモールで、運営代行企業として累計400社を超えるECサイト・モール内店舗運営をご支援。売上アップに貢献してきた実績を評価され、楽天市場の正規RMAパートナーに認定されています。

 

―もともとEC 事業者だった貴社が、ふるさと納税に参したきっかけは

地域の名産品を全国に届けられるECの可能性には大きな魅力を感じ、「挑戦にあふれる地域を創り続ける」という軸を持ちながら、地域・社会に向けた課題解決をワンストップで行い、広く愛されるためのECをプロデュースしたいと考えていました。今でこそ楽天はふるさと納税ポータルサイトにおいてトップシェアを誇りますが、ふるさと納税ポータルとしてはやや後発で、2016年時点で契約自治体数が100ほど。まだまだこれからといった状況でした。そんな楽天から「楽天ふるさと納税に出店希望の自治体がいる」と声をかけてもらい、長崎県時津町へ。そこで自治体担当者と打ち合わせをしました。お恥ずかしながら、ワンストップ申請が何かもわからない状況から猛勉強しました。当時のことはいい思い出です。
これを皮切りに様々な自治体と契約し、今では60を超える自治体の運用実績があります(2023年12月現在)。これまでに、ふるさと納税では6000事業者・2万返礼品の取り扱いを実施しています。

 

―ふるさと納税に関して多くのEC サポート事業者がいますが、貴社の最大の強みは?

自治体や事業者の世界観を反映させるようなデザインや、シズル感ある写真などによって商品の魅力を最大限伝えることなど、クリエイティブを強みにしていましたし、定評もありました。一方で、同じようにデザイン力あるサイトが乱立してきた中、それだけでは足りないと考え、管理面での手厚いサポートも充足。そして前述した「ふるさとシコメル」をはじめとする企画力をもとに、商品力を高める提案をすることに注力しました。
EC事業で培ってきたノウハウと膨大なマーケティングデータを駆使し、今現在どういった返礼品が人気なのか、どうすれば寄附を集められるのか?といった施策や、返礼品に最適な特産品や地域事業者の掘り起こしも実施。売り上げや寄附額のアップにつなげるように最大限サポートしますし、寄附金の最大化はもちろん、返礼品の具体的な量と金額、見込み寄附金額をご案内し、事業者様の出品イメージをより明確にします。

 

 

運営事業者視点からのふるさと納税の現状今後

 

―5割ルールなど年々制度の厳格化に対してどのようにお考えですか

まず、ふるさと納税業界の変化のスピードは非常に速いものがあります。我々IT 業界で事業を展開するものとして、速さへの順応は自負していますが、それでもふるさと納税のダイナミズムには驚かされます。しかし、「地域を超えて全国から評価されて嬉しい」「おかげで年を越せます」という感謝の声もよくいただきます。ふるさと納税に関する批判的な見方が目立つことはありますが、この制度がもたらすポジティブな側面にもっと注目が集まり、その価値を強調してほしいと思います。
また、年々ふるさと納税の市場規模が拡大している中、寄附金が地方自治体にどう活かされているかといった用途を通して自治体の施策にも焦点が当たってほしいですね。

 

―借金返済に充てられる自治体も多い印象です

やはり、学校などの教育関係施設、給食費無料や医療費無料、インフラ整備など、目に見える形で地域のためになる事業に役立てられて欲しいと思います。
弊社の契約自治体である熊本県高森町の事例ですが、2019年度の寄附金額が約1億5000万円で、当社と契約後の2020年度は約8億5000万円、2022年は25億円と大きく増加しています。これは熊本県45市区町村の中でナンバーワンの寄附額です。急増した寄附金の活用を進めており、23年4月に熊本県立高森高校に公立高では全国初となる「マンガ学科」を開設。さらに、マンガ学科の学習の環境整備の費用と寮の整備事業費は全額ふるさと納税でまかなわれたということです。また、2016年に起きた熊本地震で被災してしまった町の観光資源である南阿蘇鉄道の復興支援に役立て、駅舎の改修も行っています。
かつ、こうしたふるさと納税事業に関して「これはふるさと納税事業で整備された」と一目でわかるよう、シールや印字等で明記しています。可視化することで地域の人もふるさと納税の価値への理解が深まりますし、街ぐるみで力を入れていこうという意欲にもつながるでしょう。

 

高森町ではふるさと納税事業で購入された物品にはシールや印字を行うことでふるさと納税の用途を文字通り可視化

 

 

―ふるさと納税以外の自治体との取り組みは

先ほど事例に挙げた高森町とは、企業誘致を共に行う協業プロジェクトを実施したり、地域の若者を対象としたスタートアップ支援成功体験の応援をしたりと、地域活性化のきっかけづくりなど本当に幅広く連携しています。
別の自治体でのユニークな事例として、地域の学生を対象にしてふるさと納税の返礼品開発を目的とした事業を行っています。返礼品を開発するためのノウハウ提供から商品化するにあたっての商品パッケージ化・印刷等まで、弊社がアドバイスや各企業様をご紹介し、全面的にサポート。実際にふるさと納税の返礼品になり、その返礼品に寄附が入る事で若者や学生の成功体験に貢献できたかなと感じています。
他にも、地域の情報を詰め込んだパンフレットを作成して関係人口創出に繋げるといったことや、事業者向けの説明会開催をしたり、事業者向けふるさと納税説明会の開催、楽天、AmazonをはじめとしたECモールのセミナーを無料で開催しています。

 

―熊本県経済を牽引していく「リーディング企業」にも認定されていますね

ECやふるさと納税運営代行業務で商品や返礼品の画像撮影を行っている関係で、多くの事業者様からたくさんの食品がサンプルとして届くので、未使用の食品は地元の子ども食堂に提供しています。また地元の銀行や新聞社と連携協定を締結し、地域経済の活性化に向けてさまざまな取り組みを行う予定です。

 

株式会社サイバーレコードは熊本県が認定するリーディング企業に情報通信関連企業として初選出

 

 

―最後に、自治体へメッセージをお願いします

まず、地域の活性化にはその地域の事業者の存在が欠かせません。弊社も熊本にある企業ですが、やはり地域の事業者が元気で利益を上げ、新たな雇用を創出し、従業員が満足する、そういった循環が大事です。当社としては、ふるさと納税だけではなくECの販売拡大のサポートもすることで事業者の成長を支援できると確信しています。
我々と同じように、事業者を支援したい、さらには、寄附金を地域のために有効活用したい、長期的な視野を持ってふるさと納税に取り組みたいという考えの自治体と連携し、共に地域の将来を明るくするための取り組みを進めたいと考えています。

(取材日:2023年12月18日)

 

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