データ活用で観光事業と地域に明るい未来を。
地道な取組こそがDX推進の鍵
事業におけるデータの重要性が広く世間に認知され、自治体からのニーズも増えてきた。その一方で、データの収集・分析が手段ではなく目的に留まってしまい、本当の意味でデータを活用できている事例は多くない。
株式会社Simple Honestyは、自治体に密着して初動から自走までを伴走型で支援することによって、より有効なデータ活用とDXへの引き上げを実現していく─。
株式会社Simple Honesty
代表 山口 翔 プロフィール
- 複数の企業でウェブマーケティング、イベントプロモーション、ビッグデータ解析の経験を経て、2023年4月に株式会社Simple Honestyを設立。
- データ利用とデジタルマーケティングを軸に、さまざまな地域のデジタル化・DX推進の支援を行う。
- 東京都や観光庁などの専門家・アドバイザーとしての実績が豊富。
―山口様が会社を設立された経緯や背景をお聞かせください
私はもともと旅行が好きで、学生時代にはバックパッカーで東南アジアやインドなど世界各国を旅していました。「私が海外に行ったときに感じている楽しさを、海外から日本に来る人たちにも味わってもらいたい」という思いから、インバウンドに興味を持ったという経緯がございます。また、日本国内の各地にも旅をする中で、何らかの課題をお持ちの地域が増えていることを実感して、「観光や地域に携わる仕事がしたい」と強く思うようになったのです。
一方、私の社会人としてのキャリアはWebマーケティングの領域からスタートしています。Google AnalyticsをはじめとしたデータからHP等への反響を見ている中で、データを活用するとビジネスが好転していくことを肌で感じていましたので、データを中心に据えたビジネスを展開していきたいと考えるようになりました。そこで、“観光”と“データ”を掛け合わせた事業を行っている株式会社ナイトレイという会社にJoinして5年間ほど活動し、その後に株式会社Simple Honestyの設立へと至っています。
前職ではビッグデータの分析を全て担う形で、私がデータを見て分析レポート等を出していましたが、近年は「自分たちでデータを見て分析できるようになりたい」というニーズが高まっています。つまり、データの分析を外注するのではなく、地域の方々が自らデータを見て分析できる環境づくりが求められているのです。そんな世の中の流れに呼応するために自分の会社を立ち上げ、各地域に入り込んで伴走型の支援をさせていただいています。
―御社が自治体様に提供されている事業・サービスの詳細について
大きく二つの事業がございます。一つはデジタル人材の育成に関する事業で、その中でも特にデータの利活用促進に重点を置いているところです。昨今はデータの重要性が認識されているものの、データを取ることが「手段」ではなく「目的」になってしまっているケースが非常に多く見られます。そのため、データをしっかり「手段」として捉え、「目的達成のためにデータを使う」というスキーム作りを、各地域に入り込み型でご支援しています。
次に、データを見るためのダッシュボードの構築です。ご要望が増えている領域でもありますし、わかりやすいダッシュボードがあれば地域のデータの利活用はさらに促進されると考えておりますので、二つ目の事業領域として力を入れていますね。ダッシュボードを構築して地域の方々が簡単にデータを見られる環境を作りつつ、あわせてデータの活用と人材育成の部分もサポートしています。
―データ活用と人材育成の支援について、具体的な内容を教えてください
まずはデータ分析の基本的な考え方を伝えることが重要になりますので、最初に職員の皆様を集めてレクチャーさせていただきます。ただし、汎用的な内容ばかりでは地域の課題解決に繋がりにくいため、概要のレクチャーを行ったうえで地域独自の課題に切り込み、実際のデータを見ながら伴走的にご支援をしていきます。
実際に仮説を立て、その後にどのようにデータを活用していくのか。その全体的なスキームを伴走型で動いていくことは、まさに当社が得意としている部分です。そして一連の流れの中で少しずつ人材を育て、地域の方々が自走できる状態に引き上げていくことを重視しています。デジタル関連の研修を外部に提供する企業は増えていますが、やはり研修だけでは汎用的すぎますから、現場の事情や課題に寄り添ってサポートできる人材が求められていると思うのです。一度のサービス提供だけで終わるのではなく、地域に入り込んでアドバイザーとしてコンサルティングの形式で動けるところは、当社の強みの一つでもありますね。
自治体様によってまちまちですが、月に2回くらいの頻度で入らせていただくケースが多いです。前述のとおり最初は研修からスタートしますが、立ち上がってくると一緒に戦略を練る段階に入りますので、ご一緒にデータを見ながら議論を行います。施策が動き出した後は、データを測定しながら効果検証を行ってPDCA(※)を回していきます。
※PDCAサイクル:Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)。仮説・検証型のプロセスを循環させて品質を高めていくこと。
―一緒にディスカッションをしながら実作業を進めることで、最終的に人材育成へと繋げていくイメージですね。その中で、山口様が意識されていることや差別化のポイントは
大きく二つございまして、一つ目は「抽象的ではなく具体的に」というところをテーマとして掲げています。データ分析の研修や支援では、「データ分析とは」のような抽象的な概念ばかりを伝えてしまうケースが散見されますが、最も重要なのは実際の事業の中でデータを活用することです。当社はまさにデータを実際の事業に落とし込んでいくところを得意としているので、データを活用して事業を回していくための具体的なご支援が可能です。
二つ目は、観光の知見とノウハウに強い点です。冒頭で申し上げたように私自身がもともと旅行好きでしたし、観光畑で5年以上にわたって活動しておりましたので、観光特有のデータの見方やフレームワークを理解しています。成功事例や失敗事例も数多く経験して参りましたので、観光に特化した視点でデータ活用を促進できるところも当社の特徴であり強みだと言えるでしょう。観光のデータマーケティングでは、旅前・旅中・旅後という独自のフレームワークが存在しています。旅行者の視点でデータを整えて、どこに課題があるのかを明確にしていくことが大切なのです。観光以外の分野とはデータの見方や整理の仕方が大きく変わってくるのですが、観光に特化したデータ活用は当社の得意分野ですね。
―自治体様への支援で具体的な事例をお聞かせください
データの地産地消を意識している自治体様がございます。今は高額を出せばビッグデータを購入できる時代になりましたが、コストが膨らむと持続するのは難しくなりますよね。予算が尽きたらせっかくのデータ分析が頭打ちになってしまうので、自分たちでデータを作ることにチャレンジしています。
具体的に該当するのは、宿泊施設さんが持っている予約・宿泊のデータ、お土産屋さんの購買データ、交通施設さんから取れる乗降客数のデータ等です。これらを一つのダッシュボードの中に入れて“見える化”を行い、地域のために還元できるような取組を進めています。さらに昨今はGoogleフォーム等で簡単にアンケート調査ができたりもするので、地域の商店や事業者の方々からデータを回収して、地域のために活用できればと。ここはコストをかけずに動けるため、持続性という部分でも期待値が大きいでしょう。地場で取れるデータを集め、ダッシュボードで見やすい状態にして、そのデータを見たうえで次の戦略を立てていくところまでを、トータルで支援させていただいています。
―伴走型の支援によって今までにない知見が自治体様に入り、非常に良い効果が生まれそうです。取組の中で苦労されたポイントは
最初の障壁としてあったのは、データの提供に難色を示されるケースが多かったことです。「地域にデータを提供したくない」「自分たちのデータは自分たちのために使いたい」というご意向の事業者さんが一定数いらっしゃったので、根気よくアプローチする必要がありました。データを提供してもらうことで、先々に還元されるメリットをご説明させていただき、少しずつ納得してくださる事業者さんが増えてきたという形です。データを提供することを不安に思われる事業者さんは少なくないでしょう。しかし、地域ぐるみで一体となって取り組むためには“仲間”を増やしていく必要がありますので、当社が動いて調整を行いました。私自身がデータの価値を私自身が信じて、地道に伝えていくことが重要だと改めて実感したエピソードでもありますね。
観光分野のDX実現への道程を共に歩む
―御社が見据える今後の展開や、業界全体についての展望やご意見をお聞かせください
当社としては、観光領域でデータを活用した戦略作りから効果検証まで着実に行える地域を、一つでも多く増やしていきたいと思っています。前述のように、まだまだデータの収集・分析が「手段」ではなく「目的」になってしまっているケースが多いため、「手段」としてデータを活用し中長期的な戦略に落とし込める自治体様を増やせるよう、さらにご支援を広げていくことが目標ですね。
これからの観光分野では、「サステナブル」が一つのキーワードになると考えています。ここで私が最も大切だと思うのは、「三方良し」であることです。三方とは、観光客の方々、地元の方々、そして事業者の方々を指します。わかりやすい例としては、オーバーツーリズムの問題があります。これは観光客の方々が非常に満足している一方で、地域の方々は不満を抱えている状態ですよね。観光を持続的に発展させるためには、地域の方々の満足という要素を欠かすことはできません。しっかりと三方を見据えたうえでのサービス作りや仕組みづくりが、観光分野の重要なポイントとして求められてくるのではないでしょうか。
―最後に、DXに関する山口様のご見解と、自治体様へのメッセージをお願いします
DXはスマートにやろうとするほど上手くいかない事例が多く、ある種の泥臭さが必要になることを日々痛感しています。一歩一歩を少しずつ着実に歩んでいくこと、上手くいかないことがあっても諦めずに愚直に取り組んでいくことが、成長・成功の鍵なのです。DXは、デジタイゼーション(Digitization/情報のデジタル化)、デジタライゼーション(Digitalization/ビジネスプロセスのデジタル化)という段階を踏んで進んでいきます。まずはしっかりとデジタイゼーションをしないことには、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation/DX)まで繋げられません。
当社では、地道に愚直にデジタル化を進めて最終的なDXまで辿り着けるよう、それぞれの自治体様の思いや課題に寄り添いながら、中長期的かつ伴走型のサポートをさせていただいております。ご興味のある自治体様や、地域のDX推進に課題を感じている自治体様は、ぜひお問い合わせください。