2023年、技術革新が急速に進み、行政DXのメインテーマがChatGPTになりました。多くの自治体がChatGPTの導入を検討していますが、その活用方法や効果については自治体間で大きな差が生じています。ある自治体では「GPTは正確で業務効率化ができる」と評価される一方、別の自治体では「GPTはデタラメで使えない」と判断されるなど、評価が2極化しています。
この差が生じる根本的な原因は、ChatGPTの公式マニュアルを正しく理解し、適切に設定しているかどうかにあります。初期状態のChatGPTは、インターネット上の情報をもとに回答を生成するため、必ずしも行政業務に必要な正確性を担保できません。この課題を解決するためには、行政特有の対応が必要です。
行政でのChatGPT活用における3つの必須条件
行政でChatGPTを効果的に活用するには、以下の3つの条件を満たすことが不可欠です:
①行政情報に基づく高い正確性
行政業務では、誤った情報提供は許されません。市民向けの情報や内部の意思決定において、確かな根拠に基づいた正確な情報が求められます。初期状態のChatGPTは、インターネット上の情報を学習していますが、その情報が必ずしも正確とは限りません。
②著作権を守るため公共データを使用
ChatGPTが生成する文章に著作権侵害のリスクがあることも課題です。行政の文書作成では、著作権を侵害しない公共データを基にした回答を得る必要があります。
③行政用のセキュアな環境
無料版のChatGPTは、入力されたデータが学習に利用される可能性があります。行政情報や市民の個人情報を扱う環境では、情報漏洩リスクを最小化するセキュアな環境が必須です。
自治体でのChatGPT導入成功のポイント
追加学習による精度向上
ChatGPTを行政業務に適応させるための鍵は「追加学習」(技術的には「エンベディング」と呼ばれます)です。公式マニュアルに記載されているように、ChatGPTに対して正確な行政データを追加学習させることで、より行政に適した回答を得ることができます。
これは洋服に例えると、既製服(初期状態のChatGPT)をそのまま着るのではなく、自分の体型に合わせて調整する(行政データを学習させる)ことで、より適切なフィット感を得るようなものです。
初期状態のChatGPTは、ネット上のデータを基に学習しているため、行政特有の正確な情報を持っていません。しかし、自治体の計画書や白書、条例など公共性の高い資料を追加学習させることで、正確性を大幅に向上させることができます。
現在、多くの自治体で利用されている行政特化型AIは、約8000ページ分の行政資料を追加学習しています。これにより、正確で著作権問題のない行政特化型AIとして機能しています。
指示文(プロンプト)の工夫とその限界
単純な指示文だけでChatGPTの正確性を高めようとする試みもありますが、行政業務に必要な正確性を担保するには不十分です。行政専用AIと同レベルの正確性を確保するためには、毎回541万文字もの入力が必要になるという試算もあり、現実的ではありません。
事前にデータを追加学習させておくことで、短い指示文でも正確な回答を得られる環境を整えることが効率的です。
自治体での活用事例
全国の自治体では、さまざまな形でChatGPTを活用しています。代表的な事例を紹介します:
### 文書作成支援
– 戸田市:職員採用論文の採点・評価に活用
– 多くの自治体:議事録作成、報告書要約、プレスリリース文作成などに活用
### 広報活用
– 多くの自治体:プレスリリースや広報文書を自動生成
– 住民向け情報発信の文章校正・改善
### 相談対応
– 複数の自治体:SNS相談、チャット相談への対応
– 特に相談員不在時間における初期対応に活用
### 観光振興
– 地方自治体:観光情報を学習した音声付きAI
– 観光客向け情報提供、地域の魅力発信
### 防災・危機管理
– 一部自治体:災害関連情報の提供、避難計画作成支援
### その他の分野別活用
– 農業分野:営農相談
– 教育分野:文科省ガイドラインに対応した学校向けAI
導入戦略:三段階アプローチ
自治体でのChatGPT導入には、段階的なアプローチが効果的です:
第一段階:既存の行政特化型AIの利用
まずは、すでに行政データを学習済みの行政特化型AIを活用することで、低コストで高い正確性を持つAIを利用できます。専門組織に登録することで、自治体職員は無料または低コストで利用可能な選択肢もあります。
第二段階:実証実験の実施
次に、自治体独自のデータを学習させる実証実験を行います。今年度の予算内で少額随契などを活用し、自治体の総合計画や各種施策などのデータを学習させたカスタマイズ版を試験的に導入します。
第三段階:本格導入のための予算確保
実証実験の成果を踏まえ、次年度予算で本格導入を目指します。予算要求の際は「ChatGPT」という特定のサービス名ではなく、「生成AI」という技術カテゴリーで予算化することで、技術進化に柔軟に対応できます。
予算化のポイント
AI技術は急速に進化しているため、特定のサービスに縛られない柔軟な予算設計が重要です。予算要求の際には以下の点に注意しましょう:
– 「ChatGPT」ではなく「生成AI」という表現を使用する
– 技術の進化を考慮し、柔軟性のある仕様書を作成する
– 行政特有のセキュリティ要件を明確にする
– 追加学習用のデータ整備コストも考慮する
技術の進化が速いため、長期契約よりも技術動向を見据えた柔軟な契約形態を検討することも重要です。
導入時の注意点
セキュリティ対策
OpenAIの規約によれば、無料版ChatGPTに入力したデータは学習に利用される可能性があります。一方、有料のAPI経由(プログラムから接続する方法)で送信したデータは、特別にオプトインしない限り学習には利用されません。行政業務では、API版を用いたセキュアな環境構築が望ましいでしょう。
個人情報の取り扱い
個人情報を含むデータをChatGPTに入力してはなりません。相談業務などで活用する場合は、個人を特定できない形に加工するなどの配慮が必要です。
関連法規への対応
特に学校での活用を検討する場合は、文部科学省のAI生成ガイドラインに準拠する必要があります。学校用のAIは、このガイドラインに対応した追加学習と事前設定された指示文(「隠しプロンプト」)でのカスタマイズが必要です。
まとめ
真の行政改革は、単に人員や予算を削減することではなく、「行政の業務を効率化して、住民サービスを充実させること」にあります。ChatGPTをはじめとする生成AIは、この目標を実現するための強力なツールとなり得ます。
自治体がChatGPTを効果的に活用するためには、正確性・著作権・セキュリティという3つの条件を満たす環境を整え、段階的に導入を進めることが重要です。自治体独自のデータを追加学習させることで、市民サービスの向上と職員の業務効率化を両立させる環境が実現します。
急速に進化するAI技術を行政に取り入れるためには、継続的な学習と柔軟な対応が求められます。自治体間で知見を共有しながら、より良い行政サービスの実現に向けて生成AIを活用していくことが期待されています。
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