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自治体インタビュー

医療MaaSで描く
持続可能な地域医療の未来

医師不足や高齢化が進む地方都市における医療アクセスの課題に、デジタル技術で挑む注目の取り組みが、長野県伊那市で展開されている。2020年から始まった医療MaaS(Mobility as a Service)は、オンライン診療機能を搭載した専用車両による訪問診療サービス。当初想定していなかった妊産婦健診での活用が急速に広がり、新たな展開を見せている。

 

伊那市役所 企画部企画政策課 新産業技術推進係
大塚 弘志(左)、村田 和也(中)、谷田 覚(右)


 

すべての人に安心を届ける、新しい医療の形

 

医療MaaSプロジェクトを開始された背景を教えてください

伊那市は長野県内で3番目に広い面積を持つ地方都市です。2020年時点での65歳以上人口比率は31.25%で、2050年には41.59%まで上昇すると予測されています。一方で、上伊那医療圏における人口10万人あたりの医師数は県内10の二次医療圏中8位、病院病床数は9位と、医療資源は限られています。

このような状況の中、持続可能な医療体系の構築を目指し、2020年から医療MaaS事業を開始しました。仕組みとしては、オンライン診療機能を搭載した専用車両に看護師が乗り、患者さんのお宅へ伺い、医師はオンラインで自宅にいる患者さんの診療を行います。

かかりつけ医に受診の相談をし、オンライン受診日を決めて予約していただくという流れになります。

 

訪問診療の移動時間がなくなりより多くの患者を診察することが可能に


 

現在までの実績と成果について教えてください。

2020年の事業開始から2024年度上半期までの利用実績は合計730件。内訳は内科が573件、産婦人科が122件、服薬指導が35件となっています。特筆すべきは、当初想定していなかった妊産婦健診での活用が急速に広がっている点です。
現在、週4日の稼働のうち月曜日を妊産婦健診に充て、火曜日、水曜日、土曜日を内科診療に当てていますが、妊産婦健診の需要は予想を大きく上回り、稼働率は100%を超える状況となっています。

実は、妊産婦健診への活用は当初まったく想定していませんでした。事業開始初期の段階に遠隔でエコー検査ができる機器を導入したのですが、安定期の内科患者さんにはあまり使用機会がないことが分かりました。そこで「エコー検査を頻繁に使うのは何だろう」と考えた時に、妊産婦健診に活用できるのではないかと気づいたのです。

ひとりでも多くの方にご利用いただけるよう、来年度末までに妊産婦健診専用の第2号車両を開発し、2台体制での運用を目指しています。

 

医師の指示のもと看護師が症状などの医療情報を報告し、診察を行う

 

 

オンラインだからこそ生まれる医師と患者の新しいコミュニケーション

 

予想外の効果や反響はありましたか?

通常の診察では医師がパソコンに向かって電子カルテを入力する姿に物足りなさを感じる患者さんも少なくありません。しかし、このシステムでは画面上で医師と患者が正面から向き合うことができ、「先生がしっかり診てくれている」という満足感につながっています。オンラインによって医師と患者の距離が近くなるというのは予想外でしたが、デジタルの可能性を改めて感じました。

また、在宅診療と比べ患者さんの負担が軽減されるという声も寄せられています。「先生が来るなら家の中を片付けなくては」という負担感から解放され、3〜4ヶ月に1回の往診の間の診療をより気軽に受けられるようになったという声が多く聞かれます。お腹の大きい妊婦さんや高齢者の方にとって、自分で運転して通院する負担も軽減されています。

 

医師の乗らない遠隔診療専用車両「INAヘルスモビリティ」


医師の顔を見ながら話せるので安心感につながる


 

持続可能な地域医療の実現へ次なるステージを見据えて

 

今後の展望についてお聞かせください。

医療MaaS(Mobility as a Service)の取組について市民のみなさまに広くPRしていきたいと考えています。病院とも連動してもっと活用していただけるよう具体的な施策を進めていきたいと思います。

医師の時間の有効活用という面では大きな成果が出ています。往診に行くと往復で1時間半ほどかかりますが、その時間で4、5人の患者さんを診られるようになりました。医師不足などの問題解決につなげていきたいと思います。

他の自治体への助言や、制度運用における工夫があればお聞かせください。

救急や重症患者への対応は従来通りの医療機関での対応とし、安定している慢性疾患の患者さんや定期健診が必要な妊婦さんに特化したサービス提供を心がけています。また、医療情報の取り扱いには細心の注意を払い、モバイルクリニックでの診療内容やバイタルデータは記録していますが、各医療機関の診療履歴との連携は必要最小限にとどめています。

地方都市における医療アクセスの課題は、全国共通のものです。デジタル技術を活用しながら、地域の実情に合わせた持続可能な医療体制を構築していくことが重要だと考えています。伊那市の取り組みが、他の自治体の参考になれば幸いです。

(取材日:2024年11月4日)

 

伊那市役所 企画部企画政策課 新産業技術推進係
〒396-8617 長野県伊那市下新田3050番地
TEL:0265-78-4111(内線2142、2146)

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