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自治体インタビュー

デジタルと人的支援が融合した移住促進
豊岡市のUIターン促進と関係人口拡大の新戦略

移住ポータルサイト月間5万PV、地域おこし協力隊の定着率66.7%(全国平均53.1%)、2016年度からの累計移住者数374組683人。 移住促進のモデルケースとして全国的に注目を集める兵庫県豊岡市。「飛んでるローカル豊岡」という統一ブランドのもと、移住相談、住まい、仕事まで、ワンストップで支援する体制を構築。デジタル技術を活用しながらも、人と人の繋がりを重視した取組で、持続可能な移住促進を実現している。

 

photo by bozzo

 

兵庫県豊岡市 くらし創造部 地域づくり課 移住定住・若者係
沖中 正孝

税務課収税係農林水産課環境農業推進係など、多様な経験を経て、2019年から移住施策を担当。「飛んでるローカル豊岡」の運営や地域おこし協力隊の活用など、デジタルと人的支援を組み合わせた移住促進策を展開。移住検討者に寄り添ったワンストップサービスの実現と、地域全体での受け入れ体制構築に注力している。

 


 

 

「飛んでるローカル豊岡」を軸に一貫した移住促進施策を展開

 

豊岡市の移住促進策が成果を上げてきた要因は何でしょうか。

当市の移住ポータルサイトの名称「飛んでるローカル豊岡」を統一ブランドとして、一貫した情報発信と支援体制を構築できたことが大きいと考えています。2016年に同ポータルサイトを立ち上げた当初から、市民ライターさん達と共に、豊岡市の魅力を伝えるコンテンツを作り続けてきました。現在では月間約5万のページビューを記録し、SNSもFacebook 3,277人、X(旧Twitter)1,119人、Instagram1,330人のフォロワーを抱える情報発信プラットフォームに成長しています。ブランディングの効果は、コロナ禍の移住ブームで顕著に表れました。全国的に地方移住への関心が高まったとき、それまでの情報発信の土台があったからこそ、「選ばれる移住先」として名を連ねることができたのでしょう。

当市が特に重視しているのは、移住検討者に寄り添ったワンストップサービスの提供です。移住相談、住まい探し、仕事探しなど、従来は各部署に分かれていた支援を、できる限り一元化できるように努めています。近年では、仕事情報専用のポータルサイト「TOYOOKA WORK STYLE」も、「飛んでるローカル豊岡」の世界観に合わせたり、若者をターゲットとし、そのターゲットに合わせたりしてリブランディングしました。こうして移住検討者が迷わず必要な情報に辿り着けるように工夫しています。

 

「面白そうな町」を印象づけるキャッチと、あらゆる情報が徹底的な整理された市直営の移住ポータルサイト

 

 

住まいの支援について、具体的な取り組みを教えてください。

7万5千人規模の都市である豊岡市には、民間アパートも一定数ありますが、移住者や地域おこし協力隊の方々に対しては、あえて空き家の活用を推進しています。その理由は、地域のコミュニティとの繋がりにあります。アパート居住では、なかなか地域行事などに呼ばれる機会がありません。一方で空き家に入ると、地域の方から「誰々さんの後に来た人」として認識され、自然と交流が生まれやすくなるのです。

市内の空き家情報は、協力不動産業者と連携して提供しています。各不動産会社が持っている物件情報を移住ポータルサイト内で発信し、さらに改修費用の補助制度(補助率2/3、上限100万円)を設けることで、空き家活用を促進。引越し費用補助(補助率10/10、上限20万円)も実施して、移住の経済的ハードルを下げています。

移住後のフォローアップも重視しており、例えば移住者には「コウノトリ育む農法のお米10kg」を贈呈しています。これは単なる生活支援として特産品を贈呈することではなく、地域の農家さんとの交流のきっかけづくり、人とのつながりづくりとしても機能しています。

 

 

移住スカウトサービス「SMOUT」でも積極的に情報発信。SMOUT 独自のランキングではTOP3の常連


 

移住に欠かせない「住まい」の情報をポータルサイト内に集約。一部物件ではVR 内覧も可能

 

 

地域おこし協力隊から始まる、持続可能な人材循環の構築

 

地域おこし協力隊の定着率の高さも印象的ですが、その秘訣は。

隊員同士の交流会を実施して繋がりを促しているほか、昨年度からは隊員活動サポート制度を設けてバックアップしています。また、採用の段階から、人との関わり・コミュニケーションに適性があるかどうかは重視していますね。これまでに107人(男性61人、女性46人)を委嘱し、現在の定住率は67.5%と全国平均(52.0%)を大きく上回っています。特に3年の任期を満了した方の定住率は88.6%に達し、52人の定住者のうち31人が起業しており、地域の雰囲気や経済の活性化に貢献してくれています。

地域との関係構築も重要なポイントです。協力隊員の約70%が空き家に居住しており、地域コミュニティとの密接な関係が定住につながっていると考えています。また、起業支援として任期終了後に豊岡に定住して起業する場合、最大200万円の補助を受けられる制度があるなど、定住後の生活基盤づくりもサポートしています(※国の制度である支援額100万円に市独自で100万円を追加し200万円の起業支援を実施)。2021年4月には芸術文化観光専門職大学が開学し、新たな可能性も広がっています。すでにアーティストやクリエイター約40人(家族含め約60人)が移住するなど、地域に新たな創造性をもたらしています。

 

地域おこし協力隊の任期終了後の定住率も突出している。これまでに計51人の卒業生が豊岡市で活躍中!

 

 

新しい取り組みとして計画されていることはありますか。

「特定地域づくり事業協同組合」の設立を検討しています。これは、季節や時期によって変化する地域の仕事を組み合わせた「マルチワーク」を可能にする仕組みです。例えば、春と秋は農作業、夏は海の家、 冬には過疎地域のドライバーなど、1年を通じて安定した収入を得られる環境を整備します。

特に注目しているのが、2021年に開学した芸術文化観光専門職大学の卒業生たちです。こちらの学生は一般的な就職活動とは異なり、起業やNPO法人の設立、二拠点での活動など、多様なキャリアを志向する傾向があります。「特定地域づくり事業協同組合」は、そうした若者たちや地域おこし協力隊の任期を終えた方々の受け皿になることを期待しています。移住後にお仕事探しをする配偶者の就職先として機能することもあるでしょう。

 

 

「暮らしのパーラーTOYOOKA」では、移住やU・Jターンを経験したメンバーが相談対応や情報発信を担当する


 

はたちを祝う会」はUターン促進としても重要な施策。ふるさとに意識を向け、若者と繋がりを持ち続ける

 

 

人と人を繋ぐための手段としてのデジタルツール

 

デジタル技術の活用と人的支援のバランスについて、どのようにお考えですか?

デジタル技術は、人と人を繋ぐための手段として捉えています。例えば、最近導入した『イジュウチャット』では、LINEという誰もが使い慣れたツールを活用することで、移住相談のハードルが下がることを期待しています。市民ライターや先輩移住者が参加して相談対応にあたりますので、海側と山側など地域特性の異なる各エリアの暮らしについて、よりリアルな情報提供が可能になるでしょう。

物件のVR内覧なども導入していますが、これも遠方からの問い合わせに対する初期対応として位置づけています。大切なのは、デジタルツールを入口として、最終的には人と人との直接的な関わりを生み出すことです。既存の技術を効果的に活用し、必要以上に複雑なシステムは作らないよう心がけています。できるだけ既に日常的にあるツールを活用するほうが、自治体にも移住検討者にも負担が少なく、気軽に受け入れられるのではないでしょうか。

 

 

「はたちを祝う会」。式典の簡略化、LINE申込、フォトブースの設置など、若者に寄り添った企画となっている

 

 

移住施策に悩む他の自治体へのアドバイスをお願いします。

行政組織の縦割りを超えて、移住者に寄り添ったワンストップサービスを実現することが重要だと考えています。豊岡市では「飛んでるローカル豊岡」を統一ブランドとして、移住相談から仕事、住まい、地域との交流まで、包括的な支援体制を構築してきました。

また、民間事業者や地域住民との連携も欠かせません。それぞれの分野のプロフェッショナルと協力することで、リアルでストーリー性のある移住相談、不動産、就職支援、地域交流など、より充実したサービスを提供できます。行政は全体の調整役として、各主体の強みを活かせる環境を整備することに注力すべきでしょう。

そして何より大切なのは、移住者一人一人に対して、「仕事」「住まい」「人的ネットワーク」という3つの基盤を提供することです。この3つが揃ってはじめて、持続可能な移住(≒定住)が実現します。豊岡市の取組が、同じような課題を抱える自治体の皆様の参考になれば幸いです。

 

(取材日:2024年11月7日)

 

豊岡市 くらし創造部 地域づくり課

〒668-8666 兵庫県豊岡市中央町2番4号

TEL:0796-21-9096

https://www.city.toyooka.lg.jp/index.html

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